※ 楽曲からイメージした小話
※ 親世代編のネタバレ注意
【 今でもあなたが 】
木賊は腹の傷を庇いながら布団の上に起き上がった。
愛した人を取り戻そうとしたことを後悔はしていないが、周囲に大きな迷惑をかけたことは後ろめたく思っている。
絢音が流行病に倒れた時、二人の間に産まれた長男と、それから養子として引き取った少年が亡くなった。あの病がなければ、常盤の成人の儀を早急に執り行う必要もなかった。そして、木賊自身も絢音を追い求めて禁術に手を出すことはなかった。己の弱さを実感すると共に、子どもたちの世代に申し訳ない気持ちで潰れそうになる。
木賊はふと自分の手のひらを見つめてみた。
木賊を生かしておくと判断したのは、絢音の姪である麗奈と、常盤と恋仲だという夜子という少女だった。親殺しの相手とはいえ友人の親、友人の義理の親になるかもしれない人。そんな相手が憎くとも殺したいとは思わない。絢音の妹である樹音そっくりの顔でそう言った。
物思いにふけっていても忍びとしての習性は抜けないもので、自室へ近づいてくる気配を感じて顔をあげた。
「お義父さん、夜子です。入っても宜しいですか?」
どことなく、絢音に似ていると思う。
人前で負けを認めたくないところや、強気を装っていても本当は甘えてしまいたいところ、限られた人の前でしかそれを見せないと徹底しているところ、よく響く声や下に向きがちな視線。異性の親と似た相手に惹かれるという話は聞くが、母親との記憶が希薄であるだろう常盤もその傾向にあるのかと思うと、なんだか頬が緩むような気がした。
「どうした?一人でここへ来るとは珍しいな」
「1つお伺いしたことがあります。もし…余所者である私に話して聞かせてもいい話であれば、お聞かせください。」
「いいだろう。どうしたんだ?」
もうお前は他人じゃない、と言ってやりたいのはやまやまだが、絢音がくぐり抜けてきたあの余所者を排除するような動きが、また繰り返されるかもしれない。そう思うと、簡単にそう口にすることははばかられる。
「成人の儀では、大切な人を殺すというのは本当ですか?」
「…どこでその話を聞いたんだ」
「里の外に流れてくる、数少ない風魔の噂のひとつです」
「そうか…外へは、そのように流れているのか…」
礼儀正しく座っている夜子の顔は心なしか暗い。その負の感情を見せてくれるようになったのはここ最近で、幼い頃の常盤の話を聞かせているからか、心を開いてきてくれたようだ。
「風魔は、身内殺しをするような一族ではないと、私は思っているのです。長の命令は絶対。お金や権力には靡かないと有名な一族であるのに、その大切な身内を殺すようなことをするとは思えなくて…」
「あぁ、ありがとう。常盤の嫁さんは本当にものをしっかり見てくれている」
「っ…!」
嫁という言葉に過剰に反応してみせるところは、絢音とは違うようだ。絢音はむしろ、自ら嫁にと売り込んできたうえに、当主の妻であるということに誇りを持っているようだった。
「成人の儀は、始めて暗殺の仕事を請け負うことだ」
「…幼い頃からその任務につくこともあると、常盤には聞きました。」
「奴は例外だ。その手の仕事を好んでいたからな…」
「では、成人の儀とは具体的になにが行われるんですか?」
「……お前が殺したのは、誰かが大切に思う相手だ。愛しいと思う人を殺したのだ。そう言い聞かせて暗闇に閉じ込める。そうして過度のストレスを与えて感情を押し殺す術を学ぶのだ。」
暗闇、といっても、その定義は人によって様々だ。木賊は自宅の地下にある座敷牢だったし、常盤の時には少々過酷だとは思ったが一番危険な方法を取り入れた。箱に詰めて地面へ埋めたのだ。
「では、常盤は自分の大切な人を殺めたわけではないのですね…」
ほっとしたように言う少女に、木賊は微笑ましく思い頬をゆるめた。
「私は、風間家当主の妻として、彼を支えていく覚悟を決めました。まだ時期ではないと判断し、常盤には返事をしていません。しかしながら、若輩者ゆえご無礼もあるかと存じます。どうか、暖かなご指導ご鞭撻、よろしくお願いいたします。」
まっすぐな背中で言い、そして優雅に礼をした少女は、やはり絢音に似ていた。
そして思うのだ。亡くなって何年も経過する、それから言い寄ってくる女性が居なかったわけでもない。それでも、やはり絢音が一番であり唯一であると。そう思ってしまうのだ。
木賊は好きなのだ、絢音を思い出させてくれる夜子の声が。
絢音にそっくりなその声を聞くだけで、涙が出る。それはきっと、今でも彼女を愛しているからなのだろう。
涙した木賊に慌てる目の前の少女と、自分が愛した女性との息子が、幸せであれるようにと、木賊は心の底から祈った。
2015/06/05 今昔
楽曲は
歌手:藤田麻衣子
曲名:今でもあなたが
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